うたとはるの往復書簡『お茶会の和菓子』

読者のみなさん、こんにちは。はるです。
書人のうたさんと私はるの共通の趣味を、文通形式ででお送りするシリーズ第2回目。
これからも、日本文化に深く通じる月齢を意識して、満月ごとの更新でお届けして参ります。
先月、うたさんからいただいたお手紙はコチラです。
はるから、うたさんへのお返事を、まずはご紹介申し上げます。
初秋の候。
まだまだ暑さは残るものの、夕焼けの映し出す影にどことなく秋の訪れを感じます。
ほんの少し、夜の訪れが早くなってきたような……。
月がまた、まぁるく満ちてきました。
うたさんからのお便りにもあった通り、今年はコロナの影響でお茶会だけでなく、祭りをはじめとした夏の行事も中止となり、とってもさみしくぽっかりと心に穴があいてしまったようです。
「集う喜び」を埋めるなにかを、なんだかぼんやりと探してしまう毎日です。
それでも季節の移ろいをやさしく感じ、こころを癒す日々。
このやわらかな気持ちは、茶の道を知ったからこそ大切にできるようになったと感じています。
うたさんにとってのお茶って、どんなものですか?
茶道を通じて「お作法=お相手を想う心」だと知った今。
『間違えたらどうしよう』という恐れは、すっかりなくなってしまいました。
でも簡単なお作法を知っているとお茶席へ行く気持ちも軽くなるものだと、うたさんのお手紙を拝読し、お茶をはじめたばかりのガチガチに緊張していた私にも教えてあげたくなりました。
ねぇうたさん。
もっともっと、お茶の世界は「やさしいもの」なのだと、みなさんに知っていただきたい。
そんな風に感じました。
だってお茶はやわらかな美しさに満ちているから。
うたさんの仰っていた「和菓子」が導く、めくるめく美しい意匠の世界もそうですね。
今日は茶道での和菓子のことを少し語ってみようかなと思います。
お茶会の和菓子 どんなものがあるの?
「和菓子目当てで、お茶をはじめました♪」
そんなおちゃめな方、実は結構多いのではないでしょうか。
(それなら気軽に感じてくださる方もいらっしゃるかしら。)
茶道は総合芸術と例えられるほど、あらゆる面に美意識が息づく世界ですが、和菓子ひとつをとっても美しいもてなしの心にあふれています。
和菓子の違い~ 薄茶・濃茶ってなぁに
ところで、みなさまがイメージする「和菓子」はどのようなものですか。
お茶会における「和菓子」は、出される「お抹茶の種類」によって変わります。
お抹茶の種類・・・?
そう実は、茶道でのお抹茶には『薄茶(うすちゃ)』と『濃茶(こいちゃ)』の2種類があるのです。
薄茶 うすちゃ おうす
みなさんがイメージする「お抹茶」は「薄茶=おうす」と呼ばれるものかと思います。
粉末状のお茶に湯を注ぎ、茶せんという道具を用いて混ぜられたもの。
茶道に関わったことがなくとも目にしたこと、きっとありますよね。
これが「薄茶」です。
▼薄茶の点て方
※抹茶は「淹れる(いれる)」ではなく「点てる(たてる)」と表現します。
(1)茶わんに抹茶(粉末)を入れ、
(2)湯を注ぎ、
(3)まぜます。
▼3ステップで出来上がり
お茶会では、この3ステップにおもてなしの心を込めて、丁寧にお茶を点てます。
それを『お点前(てまえ)』と言い、美しい所作はお茶会における「目のごちそう」です。
この薄茶といっしょにいただくのは軽やかな「干菓子(ひがし)」。
舌の上にほんのりと甘さを残します。
濃茶 こいちゃ おこい
『おうす』の約2倍のお抹茶(粉末状のお茶)を使い、とろりとした濃厚で香り豊かなもの。
薄茶よりも格上とされ、お茶人はこの『おこい』を楽しむことを最上の喜びとしています。
(でもね、うたさん。はるは、この「おこい」のおいしさがまだよく分からないのです。)
引用:公益財団法人 上田宗箇流
※濃茶は「点てる」ではなく「練る(ねる)」と言います。
カフェインも多く苦みも強いお濃茶をよりおいしく味わうためのものが「主菓子(おもがし)」。
口の中に甘味をしっかりと含ませておきます。
お干菓子 おひがし
薄茶をいただく前に出されるのが、水分の少ない乾燥した「お干菓子」です。
基本的には直接、手で取り、いただきます。
【和三盆 わさんぼん】
伝統的な製法でつくられる砂糖の一種。
材料として使われる他、そのものを固めて菓子とされる。
引用:和三盆専門店 わさんぼん
【落雁 らくがん】
和三盆と似たような形状で、型に押してかたち作られた乾燥した菓子。
原材料は米粉などのでんぷん質粉に水あめ、砂糖を加えたもの。
引用:森八
【有平糖 あるへいとう】
砂糖と水あめを煮詰めてつくる飴菓子。
ポルトガル伝来で、繊細な細工が施される美しい和菓子です。
引用:ケーブル4K
主菓子 おもがし
さきほど、お濃茶には「主菓子」と申しました。
これは「和菓子」と聞いて、多くの方がふっと想像するものかと思います。
和の喫茶店やお寺などでは、薄茶といっしょに出されることの多い主菓子。
お茶会では濃茶をいただく前に出されます。
手のひらサイズの彩りゆたかな和菓子たちは、見ているだけでほっこりした気持ちになりますね。
【練り切り(ねりきり)】
白あんに砂糖とつなぎになる材料を加え整えて作られる生菓子。
多彩な色使いで季節が表現された繊細な姿です。
【竿もの】
羊羹(ようかん)などのように、長い形状の和菓子で切り分けていただきます。
【薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)】
すりおろした山芋などに砂糖、上新粉を合わせた皮であんを包んで蒸したおまんじゅう。
※薯蕷饅頭は楊枝などで切ると崩れやすいので、直接手にとり3つから4つに割ってお召し上がりください。
※上用まんじゅうとも言われます。名称の由来は諸説あり。
お茶会での菓子のいただき方
和菓子のことを考えている内に、口の中がほのかに甘く感じられてきました。
でもお茶会での和菓子の楽しみは、おいしさだけではないんですよね。
和菓子と器、茶室のしつらい(飾り付け)との調和。
日本の美しい季節のうつろいを映す「すがた」と「めい」も味わっていただきたいもののひとつです。
(茶道の世界で使われる言葉もまた、美しいなぁと感じます。)
すがた=姿:見た目・かたちのこと。
めい=銘:名前のこと。
和菓子だけでなく、道具のひとつひとつに銘がつけられています。
季節にちなんだ言葉、作られた土地の名前、譲ってくださった方にちなんだものなど。
見ているだけでも、充分楽しんでいただけると思います。
でもせっかくのお茶会、すこーし作法を知っていると、よりここちよく楽しむことができます。
頂き方をすこし覚えて、和菓子の味わいをもっと深めてみませんか。
銘々皿 と 黒文字 めいめいざら と くろもじ
銘々皿とは、直径15cmほどの小さなお皿のこと。
お皿1枚にひとつの主菓子を乗せ、黒文字と呼ばれる楊枝を1本添えて出されます。
(1)銘々皿を両手ですくいあげるようにし、5cmほど上に持ちあげる。
「ありがとうございます。いただきます。」というご挨拶です。(心の声で)
(2)そのまま自分の膝の上に引き寄せ、黒文字を取り一口大に切っていただく。
(3)元あったように銘々皿の手前に黒文字を置き、出された位置に戻す。
(4)右回りに90度に2回まわし、正面を反対側へ向ける。
(5)数センチ前に進める。(お皿をお返しする。)
(6)三つ指をついて、軽くおじぎをする。
『おいしくいただきました。』のご挨拶です。(心の声で。)
懐紙 かいし
懐紙とは15cm四方ほどの和紙のこと。
20枚ほどが束になっており、半分に折られた状態で売られています。
茶道では和菓子や料理を取り分けるお皿の代わりや器を清めるために使用します。
銘々皿は、そのまま使っても差支えありませんが、懐紙に菓子切り(楊枝)をはさんで持参なさって、そこに取り分けてからいただくと「なんだかちょっと出来る人」といった印象になると思います。
(1)銘々皿を5cmほどかかげ、感謝したあと、お皿をもとの場所へおろす。
(2)懐紙を取り出し、1枚だけ引出して束の上に乗せてお皿と自分の間に置く。
(3)黒文字を右手で上から取り、懐紙に移す。
※このとき左手をそっと和菓子に添えて、転がってしまわないように気を付けてくださいね。
(4)懐紙の隅で、黒文字をぬぐい清める。
(5)銘々皿に黒文字を戻し、右回りに90度に2回まわし、正面を反対側へ向ける。
(6)お皿を数センチ前に進める。
(7)和菓子ごと懐紙を自分の左手に乗せる。
(8)懐紙に挟んだ菓子切り(ご自身の楊枝)を引き出して和菓子をいただく。
(9)和菓子をいただいたら懐紙は片づけ、三つ指をついて、軽くおじぎをします。
『おいしくいただきました。』のご挨拶です。(心の声で。)
菓子鉢
菓子鉢とは深さのある直径30cmほどのお皿のことで、3~5個ほどの和菓子を盛り付け、数人分を取り分けるための器です。(深さのない、平なお皿が使われることもあります。)
20cm程度の取り分け用の箸が2本添えられており、懐紙に取り和菓子いただきます。
▼とても丁寧に解説されていますので、ぜひこちらの動画をご参照ください。
お菓子の頂き方については、3分40秒から4分40秒の1分間ほど。
引用:YouTube
こちらの動画の中でもお話されているように、お作法は「流派」によってすこしずつ異なります。
『お相手を想って』のふるまいのため、いずれが正解とも不正解とも言えません。
(この判断が難しいところでもあり、また本来の茶の湯の自由さでもありますね。)
菓子鉢・菓子器からお手元に和菓子を取る折に難しく感じられるのが、お箸の扱いでしょうか。
両手を交互につかう丁寧な動きは、見ていてもとても気持ちのよいもの。
簡単にご説明いたしますので、ぜひ日ごろから、意識なさってみてくださいね。
(1)右手で上からお箸の持ち手部分(皮のついている場所)を取る。
(2)左手を箸の下に差し入れ、支える。
(3)箸の右方向へ右手をすべらせ、箸の下側へ回す。
(4)左手を離し、和菓子を取る。
※和菓子を取る際は、左手を菓子鉢・菓子器に添えてください。
お茶とお菓子はひといきに
のーーんびりと、お茶と和菓子を交互にいただきながら。
じつはこれは、お茶会ではNGなのです。(ごめんなさい)
カフェインの強いお茶から胃を守るため、甘味は昔は貴重なものだったから…理由は諸説ありますが、ひとまず「菓子は菓子、茶は茶」としていただくというルールだと思ってください。
お茶会は本来、濃茶・薄茶・食事がセットとなり4時間ほどの長い時を楽しみます。
それを『茶事(ちゃじ)』と申します。
茶事の流れの中では「菓子は菓子、茶は茶」というルールが『一服の茶』のおいしさを、これ以上ないほどに演出してくれるものなのです。
むずかしく考えずに、そっとまわりの方に聞いてみてください
「和菓子の頂き方」
ちょっと、ドキドキされた方もいらっしゃるかもしれませんね。
はじめはだれでも分からないものなのに、心得がないとお茶をいただいてはいけないと感じられる方が多いのも事実です。
お茶の世界は「最上級のもてなしの心」のみで存在しています。
間違えたって、誰も叱ったりなんかしません。
お招きした側が、緊張させてしまったことを申し訳なく感じてしまうほどです。
(ごくまれに、すっごーく怖いお師匠さんがいらっしゃるのもまたほんとですけれど……。ゴニョゴニョ。)
もちろん大声で騒いだり、大切なお道具をぞんざいに扱うことはよくないことですが、手順やお作法が分からないことに遠慮はいりません。
どうぞお気軽に「どのようにいただけば、よろしいのでしょうか。」とお尋ねくださいね。
きっと拍子抜けしてしまうくらい親切に教えてくださいますよ。
たくさんの方が、やさしいお茶会でのひとときを楽しんでいただけることを願っております。
めくるめく美しい新しい和菓子の世界
「伝統文化」と言われる茶道も、はじまりはとても革新的で『アバンギャルド』な世界でした。
伝統は古きものを引き継ぐだけでなく、その時代、環境に合わせて新しいものを加え変化していくべきものではないでしょうか。
茶道と切り離すことのできない「和菓子」も同様。
和の伝統を引き継ぎ、洋の文化を取り入れ、新しい技術や材料を用いながら、次々と素晴らしい世界が生み出されています。
そんな美しくモダンな和菓子の世界を少しだけご紹介します。
HIGASIYA
伝統を重んじながらも革新的な美意識に裏打ちされた和菓子。
デザイン会社「Simplisity」の緒方慎一郎氏が手掛けられた世界です。
(実は、はるは「現代の利休」なのではないかとすら感じている方です。)
引用:Instagram
公式HP https://www.higashiya.com/
銀座店
〒104-0061 東京都中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル 2F
11:00 ~ 19:00(茶房 18:00 ラストオーダー) 無休
※他2店舗あり(詳細はHPをご参照ください。)
お菓子丸 おかしまる
やさしさに包まれる、美しく、美味しい、彫刻のような和菓子
「5cmの立方体に収まる美味しい彫刻」
お菓子丸こと杉山早陽子 さんは、和菓子をそのように定義されています。
(食べてしまえば消えてしまう儚さと、胸に残るあたたかい余韻に泣きそうになるのです。)
引用:Instagram
公式HP https://www.okashimaru.com
実店舗なし
彗星菓子手製所 すいせいかしてせいしょ
キラキラとしたやすらぎと、懐かしいトキメキの共存する和菓子。
暮らしにやどる、ささやかな美の一瞬、一瞬、をとらえた世界です。
(菓子の銘にはじまり、一皿で紡がれる物語のすべてを堪能しつくしたいなぁと思います。)
引用:Instagram
公式HP https://suiseikashiteseisyo.tumblr.com/
実店舗なし
『お茶会のお菓子』おしまいに
茶道においての「和菓子」について、次の3つの内容でお話して参りました。
- お茶の種類の違い「薄茶」と「濃茶」といただく和菓子
薄茶には「干菓子」、濃茶には「主菓子」が出されるのがお茶会です。
薄茶と濃茶の違い、それぞれのお菓子を種類ごとにご説明。
- お茶会での和菓子のいただき方のマナー
お茶会では、和菓子をいただく際にもお作法があります。
けして難しく考え、とらわれる必要はありませんがちょっと知っておくととっても気が楽になります。
日常の生活でも生かせる、ふるまい方をお伝えいたしました。
- モダンな和菓子の世界
伝統的な茶道の世界もはじまりはとてもモダンで前衛的でした。
その革新的なスタンスは「和菓子」も同様。
現代社会で進化し続ける和菓子の世界をご紹介しました。
茶道と切り離すことのできない和菓子。
決まり事ももちろんありますが、それはすべてやさしいもてなしの心。
うたさんの仰るとおり、お客様にとって『心地よい空間と時間』を大切にすることが茶道の本質なのだろうと思います。
茶道は『うつろいゆく美』を、たくさんの方と一緒に共有できる世界です。
季節の移りかわりの美しい日本を、もっと体感していただきたいですね。
満ちては欠けてをくりかえすお月様もまた、うつろう美しさの化身。
次の満月は「中秋の名月」ですね。
暑さが残る夜ですが、日に日に深まる秋を思いながら、筆をおきます。
どうぞお元気で。
ではまた。
10月1日、次の月の満ちるころに。
かしこ
はる
▼うたとはるの往復書簡シリーズ
第1回『お茶席のマナー』 uta
第2回『お茶会のお菓子』haru
第3回『観月』uta
第4回『お茶の流派』haru
第5回『歴史の中の茶道の役割とは?』uta
第6回『茶道と日本の伝統文化の未来』haru