うたとはるの往復書簡『観月』

読者のみなさん、こんにちは。うたです。
書人のはるさんと私、うたの共通の趣味を文通形式ででお送りするシリーズ第3回目。
日本文化に深く通じる月齢を意識して、満月ごとの更新でお届けしています。
先月、はるさんからいただいたお手紙はコチラです。
では、私からはるさんへ差し上げたお返事をご紹介しますね。
秋麗の候。
すっかり空気も秋めいて、空の高さが秋の深まりを感じさせてくれるようになってきましたね。
ついこの間までいたいけな声を聴かせていた虫たちも、今や大合奏で田舎の我が家の秋の夜を楽しませてくれています。
「季節の移ろいに心を寄せる」
はるさんがおっしゃる通り、私もお茶の世界を知ることでより深く感じられるように思います。
はるさんがご紹介してくださった和菓子の世界も季節季節を写し取っていて、心を楽しませてくれるので私も大好きです。
同じ意匠のものは短期間にしか楽しめない分、お茶のお稽古を長く続けていても、いまだに新しい出会いがあっていつまでも新鮮な気持ちで拝見しています。
さて、今夜は中秋の名月。
古来より愛でられてきた、美しい月の夜です。
なんとなく見上げた空に美しい月、そんなカジュアルな楽しみ方が今では主流なのかな、と思います。
でも、今でも「観月」という少しかしこまった形での名月の楽しみ方も存在していますよね。
今日は、茶道にも深く根付いた「観月」について少しお話してみたいと思います。
なぜ中秋の名月を愛でるのか?
いつだって満月は美しいし、吸い寄せられるように見入ってしまいますよね。
では、なぜ中秋の名月だけを特別に愛でるようになったのでしょうか。
歴史や行事との結びつき
中秋の名月とは、旧暦で8月15日の満月のことを指します。
元々は中国から輸入された慣習だったので、それにならって始まったと言われています。
現在では真夏の8月でも、旧暦の暦では8月は秋の真ん中の月。
「実りの秋」と言われるように、穀物や豆類など多くの作物が収穫される時期でもあります。
いわゆる収穫祭と結びついて、「中秋の名月にお供えをする」といった形になって、現在まで中秋の名月を愛でる風習が受け継がれてきた側面もあります。
中秋の名月の別名として、「十五夜」というのはおなじみですね。
他にも「芋名月」という別名もあり、この時期に収穫される芋類にちなんだ別名があるなんて、収穫祭との結びつきを強く感じますよね。
月の位置がよい
月の高さは、観賞するのに重要な要素です。
満月の高さは太陽と正反対の関係にあるので、夏の高い太陽の時期は満月は低くなり、冬の低い太陽の時期は満月は高くなります。
低い位置の満月は地上からの光の影響を感じやすく、逆に高い位置の満月は遠く感じられたり観賞しづらいことが難点です。
中秋の名月は、満月の高さがちょうどよく、観賞に適しているのです。
気候がよい
中秋の名月の頃は、湿気も少なく空気が澄んでいます。
靄(もや)が発生しにくいため、満月が美しく見えます。
また、気温も丁度良く、夜に屋外で観賞する満月にはもっともよい時期だと言えます。
観月の儀式とは?
中秋の名月を愛でる風習は、元々は中国より伝わった観月の風習が起源だと言われています。
日本では平安時代頃に始まり、当時は美しい満月を見上げながら、舟遊びをしたり詩歌を詠んだりととても風流な宴だったようです。
そこから、ちょうど穀物や芋類などたくさんの作物が採れ、収穫祭を催す時期にも重なっているので、美しい満月にお供え物をするといった行事にも発展していきます。
私は一度、普段稽古を付けていただいている先生から、茶道、華道、書道が共に創る観月の儀式に招いていただいたことがあります。
満月のためにお菓子を供え、満月のためにお茶を点て、満月のために花を捧げ、満月を賛美する書をしたためるという独特の世界がありました。
引用:マイフェバ
そこでは、お茶は「献茶」お花は「献花」。
まさに満月を神様として、お茶やお花を捧げているのです。
現在の「お月見」からは少し離れた儀式ですが、月がいつもよりも神々しく輝いているように感じました。
美しいお月さまを観賞するのに、形に囚われる必要はありません。
でも、普段とは違った「観月」を取り入れてみるのも新鮮ですよ。
現在では寺社仏閣などで、少しかしこまった観月の行事も催されています。
今はコロナで、中止されている場合がほとんどですが、落ち着いた頃にまた参加してみてはいかがでしょうか。
中秋の名月のお茶菓子は里芋!?
中秋の名月の直前のお茶のお稽古では、必ず里芋を模したお菓子を毎年いただきます。
初めていただいた時には「何で中秋の名月で里芋!?」と思っていましたが、「芋名月」の別名があるように、お月見=里芋という連想はお茶の世界ではポピュラーです。
なんとも言えない愛らしいフォルムですよね。(孫芋の表現がちょっと笑っちゃいます)
お茶の世界にも、中秋の名月と収穫祭が強く結びついているのがよくわかる事例ですね。
関西の月見団子は丸くない!
お月見の風景としてよく見かける、ススキと三方(さんぼう)に盛った丸いお団子。
私は子どもの頃、この光景は一体いつ見られるものかと毎年期待しては裏切られてきました。
そう、私の暮らす関西では月見団子は丸くないんです!
コンビニでさえ、関西風の月見団子が置かれています。
引用:鍵善良房
関東の丸い月見団子は、満月を模した丸いもの、関西の月見団子は、里芋を模したお団子にあんこが着せてあります。
今回色々調べていると、愛知の月見団子も里芋を模しているのを発見しました!
はるさんのなじみの月見団子はどんなのでしょうか?
昨年は、息子に「絵本の月見団子が食べたい」とせがまれて丸い月見団子を手作りしました。
人生初の丸い月見団子は、格別のものがありましたよ。
『観月』おしまいに
古くから観賞されてきた中秋の名月。
気候などの条件で、他の満月に比べても美しく感じるのはもちろん、収穫祭などの儀式と結びつくことで、観月の風習が脈々と受け継がれてきました。
お茶の世界でも、中秋の名月の時期には里芋を模したお菓子をいただいたり、観月茶会での献茶を行うなど、お月見の風習は深く根付いています。
もちろんお月様にちなんだお道具なども。
美しい満月を身近に感じて愛でるだけでなく、収穫祭と結びついてお供えをしたり、献茶や献花を行うなど、古来より月は神様のように扱われてもいました。
満ちたり欠けたりする姿に神秘を感じていたのでしょうか。
茶道とお月見はとても深く結びついていますよね。
お箱の「月」のようなお月見のお点前があるほどに。
年に一度のお点前のお稽古に、予習して臨んでも思うようにいかない私です。
茶道の世界はとても深く、まさに「道」で終わりがありませんよね。
よく先生に「お茶の世界はネジの様な物。一年に一度しかしないお点前でも、去年よりも深く理解していればそれで良し。」と言われます。
流派によって作法は異なっても、きっと同じなのでしょうね。
今夜我が家は晴れの予報です。
美しい満月が観られることを祈りつつ。
気候の移り変わりが激しい時期ですので、どうぞお体大事になさってくださいね。
ではまた、10月31日の次の月の満ちるころに。
かしこ
うた
▼うたとはるの往復書簡シリーズ
第1回『お茶席のマナー』 uta
第2回『お茶会のお菓子』haru
第3回『観月』uta
第4回『お茶の流派』haru
第5回『歴史の中の茶道の役割とは?』uta
第6回『茶道と日本の伝統文化の未来』haru