うたとはるの往復書簡『暮らしの中の茶道と伝統文化のこれから』

読者のみなさん、こんにちは。はるです。
書人のうたさんと私、はるの共通の趣味を文通形式ででお送りするシリーズ第6回目。
日本文化に深く通じる月齢を意識して、満月ごとの更新でお届けしています。
先月、うたさんからいただいたお手紙はコチラです。
では今月も私から”うたさんへ”差し上げたお返事を、まずはご紹介いたします。
吐息が白く、頬に触れる北風がひんやりと冴える季節。
気づけば、またひと月めぐりました。
新暦では年の瀬、まもなく年が改まりますね。
うたさんが教えてくださった「茶道の歴史」を振り返り、先人の思いに胸があつくなりました。
けして「古臭い」「堅苦しい」世界ではないのが『茶道』。
うたさんの仰るとおり、時代の流れの中で「おもてなしの心」が受け継がれてきたことは、茶道に関わる者として誇らしく感じます。
積み重ねられてきた茶道や日本の伝統文化の歴史。
茶道はこれからどうなっていくのでしょうね。
今日は気軽に暮らしに取り入れる「茶道」とその「未来」についてお話したいと思います。
「茶道のこれから」~もっと生活に身近なものに
「茶道」というと、どんなイメージがありますか?
- 堅苦しい
- 古臭い
- 作法が厳しそう
- 敷居が高い
- お金がかかりそう
たしかにそういった側面もあるのは事実ですが、実はもっと楽しくてワクワクするものなのです。
「おもてなし」「伝統」の心を持ちながらも進化を続ける「茶道」の世界。
肩の力をぬいて、ご自身の生活の中に取り入れられる「暮らしの中の茶道」をご紹介いたしますね。
暮らしの中の気軽な茶道
「茶道」というと、どうしても敷居の高さを感じてしまいますよね。
もちろん「道」と言うだけあって、厳しさや窮屈さもあります。
でもまずは『自宅で「お抹茶」をたしなんでみる』のはいかがでしょうか?
『うたとはるの往復書簡第2回「お茶会の和菓子」』でもお伝えしたように、お抹茶は【3ステップ】でいただける手軽な飲み物なんです。
もう一度、復習してみますね。
※抹茶は「淹れる(いれる)」ではなく「点てる(たてる)」と表現します。
(1)茶わんに抹茶(粉末)を入れ、
(2)湯を注ぎ、
(3)まぜます。
▼3ステップで出来上がり
粉末状のお茶に湯を注いで混ぜるだけ、いわば「インスタントティー」とも言えますね。
湯を注ぐとふわぁっと香りがたち、思わず深呼吸をしたくなってしまいます。お茶が心を穏やかにさせてくれる要素のひとつが、このアロマ効果です。
抹茶を点てるのに必要な専門の道具は「たったひとつ」
「お抹茶をいただくのには、高価な道具が必要なのでしょう?」
もしかすると、そんな疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
でも実は、お抹茶を点てるだけであれば「専門の道具はひとつだけ」でいいんですよ。
それは、茶せんと呼ばれるお茶をかき混ぜるための道具です。
- 価格:2000円~4000円(素材によってはもっと高価な場合も)
- お茶屋さんや茶道具屋さん、またインターネット通販でも購入可能。
- 海外品よりやや高価ですが、品質は圧倒的によいので国産がオススメ。
国産の茶せんはほぼ100%奈良県・生駒市にある「高山地方」で作られています。
約500年もの歴史がある「高山茶せん」。
熟練した職人の手によって生まれる茶せんは、とてもとても美しいものなんですよ。
▼2分30秒ほどの動画に、制作風景がまとめられていますので是非ご覧ください。
引用:YOUTUBE
■和北堂 谷村丹後
「見立て」で用意できるほとんどの茶道具
「お茶わんは?」
「耳かきみたいなものでお茶の粉をすくっていたけど?」
それぞれ名前のある茶道具です。
でもすべて代用がきくものなので、なくても大丈夫!
茶わん
お茶をいただくための器。
代用品:カフェオレボウル・ごはん茶わんなど
茶杓(ちゃしゃく)
お抹茶をすくうための道具。(耳かきみたいな形のアレ)
代用品:スプーン・さじ
柄杓(ひしゃく)
お湯を汲み、注ぐための道具。
代用品:急須や湯呑など熱湯を汲むことができるもの
※haruは急いでいるときはヤカンから直接注いでしまうこともあります。(ナイショ。ほんとはよくない。)
茶道では「見立て(みたて)」と言い、別のものでの代用をよしとする文化もあります。
「専門の道具がないから出来ない」と諦めてしまうのではなく、「見立てでお茶を点てました」という心意気こそが、まさに茶の心です。
気負わず、おうちにあるものでまずは一服点ててみてくださいね。
とはいっても、もちろん専用の茶道具があると嬉しいですよね。
慣れてきたら、ひとつずつ手に入れていくのも茶道の楽しみ方のひとつです。
- お茶の道具をどうやって購入すればよいのか?
- センスのよい道具でオシャレに楽しむにはどうすればよいのか?
道具を見ていくヒントをお伝えしたいと思います!
お茶の道具はどうやって揃えるの?
お抹茶を自分で点てられるようになると、すこしずつお道具を集めたくなってきます。
でも「骨董品」や「お茶道具屋さん」で購入するのは、ハードルが高いですよね。
お茶わんひとつでも、うん十万~うん百万と驚きの値札がついていることも。
もちろんそれだけの価値があるものですが、気軽に始めるにはなかなか難しい関門でしょう。
そんなときは現代作家さんの作品がオススメです。
茶道×現代作家
数千円~数万円で手に入るものもありますし、作家さんご自身がとてもモダンな道具の組み合わせで、お茶席を設けていることもあるので、現代的な茶道の世界を覗くこともできます。
人気のある作家さんを、少しだけご紹介しますね。
■陶芸:安藤 雅信(あんどう まさのぶ)さん
岐阜県・多治見市の山あいに「ぎゃるり百草」というギャラリー兼工房をかまえている陶芸家。
新しい茶の湯の世界を提案されています。
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■陶芸:内田 鋼一(うちだ こういち)さん
愛知県・名古屋市出身。現在は三重県・四日市市を活動の拠点としています。
陶芸の他、空間設計や家具などのプロダクトも制作。
四日市市にある「Banko museum」の主宰者でもあります。
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■金工:竹俣 勇一(たけまた ゆういち)さん
石川県・金沢市を拠点に活動されている金工作家の竹俣さん。
アクセサリーから、食器・カトラリーまで幅広く制作されています。
▼移動式の茶室
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▼このセットひとつでお茶が楽しめる「手のひらサイズの茶箱」
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■kiku-sayuu
公式HP:http://banko-a-d-museum.com
■金工:坂井 直樹(さかい なおき)さん
金沢と山形を行き来しながら制作を続ける金工作家の坂井さん。
現代空間に調和する工芸作品を展開しています。
▼スタイリッシュなデザインのお湯を沸かすための釜と風炉(ふろ・コンロの役割)
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■Naoki Sakai
公式SNS:https://www.instagram.com/chefnaokichi/http://banko-a-d-museum.com
どこで購入できるの?
伝統文化である「茶道」のイメージ、すこし変わったのではないでしょうか。
茶道はけして「古臭い」だけではなく、日々変化し新しいものを取り入れる世界なんです。
マンションなどの現代的な空間でも楽しむことのできる「茶の湯」。
現代作家さんの道具が素敵なのは分かりましたが、どうやって購入すればよいのか。
3つの方法をご案内いたしますね。
(1)ギャラリー
作家さんは定期的に個展・グループ展を開催し、展示販売を行っています。
人気の作家さんは全国のギャラリーを巡っていますので、実際に手にとって見られる展示会で購入するのが一番オススメです。
作家さんご自身が在廊されていることもあり、直接お話を伺うこともできますよ。
【北海道・札幌】sabita http://sabita.jp/
【宮城・仙台】space en https://space-en.jimdofree.com/
【愛知・名古屋】gellery NAOMASAKI https://www.naomasaki.jp/
【滋賀・長浜】季の雲 https://www.tokinokumo.com/
【熊本・熊本】Gallery moe http://www.gallerymoe.com/index.html
(2)インターネット
ギャラリーに入るのははじめは勇気がいりますよね。
インターネット通販でしたら、もう少し気軽に購入できるかもしれません。
「素敵だな」と思う作家さんを見つけたら、検索してみてください。
(3)雑貨屋さん
今「茶道」はちょっとしたブームになっています。
和雑貨屋さんなどでも、お茶わん・茶せんなどがセットになったものが販売されているんですよ。
■中川政七商店
奈良県・奈良市に本店を構える「中川政七商店」
日本全国の優れた工芸品をおしゃれにアレンジした商品を数多く取り扱っています。
なかでも「茶論(サロン)」というブランドラインでは、抹茶・茶道に特化した商品やサービスの提供を行っており、お茶を始めるためのセットやお茶会で使うグッズなどが手に取りやすい価格で売られています。
■茶論公式HP GOODS紹介「見世」:https://salon-tea.jp/goods/
すこし変わったところでは、アウトドアメーカーでも。
「野点(のだて)」と言って、屋外でお茶を点てることもあるのですが、アウトドア専門店がそこに注目して作ったセットなんです。
■mon-bell(モンベル)
創設者である辰野氏が茶道を趣味としていることもあり、アウトドア×茶道が生まれました。
すこしハードに動くハイキングなどでも持ち運べるように気を配られていたりと、専門メーカーだからこそのこだわりが詰まっています。
■mon-bell 公式HP:https://www.montbell.jp/
茶道をもう少し深めてみたいと思ったら
自宅で気軽に抹茶を楽しむようになり、作家さんや道具について知りました。
すると次はもう少し「茶の道」に踏み込んでみたくなってきませんか?
そうは言っても、実際にお茶を習うには、なにから始めればいいか分からないですよね。
茶道の入門にはいくつかの方法があります。
自宅近くの茶道教室の門下生になる
まずはご自宅近くの茶道教室の門下生になる方法。
親族、ご近所の方などの紹介が一般的ですが、直接連絡を取ることも可能です。
先生によっては稽古場に看板をかけており、連絡先電話番号などが記されている場合があります。
流派に直接問い合わせる
「往復書簡第4回 『お茶の流派』」でもお伝えした通り、茶道には100を超える流派が存在します。
令和の今、ほとんどの流派が公式ホームページを作っていますので、そちらから全国の教室を検索して問い合わせる方法もあります。
■宗徧流(そうへんりゅう):https://sohenryu.com/#
■武者小路千家(むしゃのこうじせんけ):https://www.mushakouji-senke.or.jp/training/
流派を出て、ご自身の会を設立された方のお稽古場
代々お家元制度のもとで受け継がれてきた「流派」を出て独自の会を設立された方や、いくつもの流派の方が寄り集まって研究・研鑽を重ねる会などもあります。
比較的「古いしきたり」にとらわれず、新しい発想を大切にしている傾向が見られますが、もちろん伝統を重んじています。
体系化されたレッスン内容は、不明瞭な弟子制度を分かりやすく、またシステマティックに見せているので、情報社会に生きる現代人にとっては受け入れやすい雰囲気も魅力です。
■自然派茶道「星窓」
https://www.instagram.com/hoshimado121111/
茶道歴21年目の目黒 公久氏が主宰。
自然茶の普及、各種セミナーなどで幅広く活躍なさっています。
星窓茶道は、本来の茶道の精神に立ち返り(自らの手で、お客様をもてなす)、おもてなしの心を真に養い、座と稽古、実践を積み重ねていく茶道です。
天地人の調和と、当意即妙の柔軟さを合わせ、「想いを手に成す」ことの道を目指しています。
教え惜しむことなく総合的に、理解が深まるよう丁寧に何度も教えていきます。
■茶論(サロン)
シンプルでナチュラルな暮らしの中に、茶道のあるひとときを取り入れる。
前述の木村宗慎氏が監修し、茶道の本質をとらえながらも、あわただしい日々の中にやすらぎをもたらす世界のご提案です。
中川政七商店が手掛けるブランド「茶論」におけるお稽古。
このようにインターネットなどでも、お稽古場を探すことができるようになりました。
またインスタグラムやTwitterなどのSNSで、積極的に発信されている方もたくさんいらっしゃいます。
『茶道』は、どこか「遠い世界」だと感じていらっしゃったかもしれませんね。
でも実は、身近に触れていただく機会や場所はたくさんあります。
伝統文化は古いものを守るだけでなく、次世代へつないでいくべき大切なもの。
ぜひたくさんの方と、平穏な一服のひとときをご一緒したい。
そのように思う年の瀬です。
『暮らしの中の茶道と伝統文化のこれから』のおしまいに
「暮らしの中の茶道」
実はとってもオシャレで楽しい世界であることをお伝えしてきました。
一服のお茶を入れる数分。
それだけで、毎日がとても豊かで尊いものに感じられるはずです。
慌ただしくすぎゆく日々、「暮らしの中の茶道」を通して、ゆったりとした穏やかな気持ちで過ごしていただくことができましたら嬉しいです。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
うたとはるの往復書簡、最後に読者のみなさまへのお便りを送らせていただきます。
読者のみなさまへ、はるとうたより。
全6回の『うたとはるの往復書簡』。
茶道を軸に日本の心をお届けしてきました。
「堅苦しい」「敷居が高い」と感じられる『茶道』ですが、実はとても身近で優しい世界。
また常に革新的で明るい世界であることを、感じていただけましたでしょうか。
この連載は今回をもって終了となります。
2020年は、世界中で価値観のひっくりかえる年となりました。
茶道のあり方も大きく変化し、これからもますますかわっていくであろうと思います。
幾たびも困難を乗り越え、新しいものを作り上げてきた先人たちの思い。
私たちも未来へつないでいきます。
読者のみなさまにとってのこれからの日々。
ますます、あたたかな笑顔であふれるものとなりますように。
6か月の連載をあたたかく見守ってくださり、ありがとうございました。
かしこ。
▼うたとはるの往復書簡シリーズ
第1回『お茶席のマナー』 uta
第2回『お茶会のお菓子』haru
第3回『観月』uta
第4回『お茶の流派』haru
第5回『歴史の中の茶道の役割とは?』uta
第6回『茶道と日本の伝統文化の未来』haru