経営者の方とお話ししていると、ときどき面白い現象に出会います。
「今年は新規顧客を増やしたい」
そう話している会社に、すでに数百人、数千人の顧客との接点がある。
ところが、その過去のお客様には、ほとんど連絡していない。
売上を考えるとき、「新規顧客」だけを見ていませんか?
新しい人を探すことには熱心なのに、すでに一度、自社を選んでくれた人との関係は、そのままになっている。
これ、少し不思議ではないでしょうか。
売上を伸ばす方法は、新規顧客を増やすことだけではありません。すでに関係のあるお客様との接点を見直すことで、もう一度役に立てる可能性が見えてくることがあります。
売上を「新規顧客の数」だけで考えない
もちろん、新規顧客の獲得は大切です。
市場を広げることも、会社を成長させるうえで重要なテーマです。
ただ、売上を構造として見ると、
「新しい顧客を増やす」
だけが選択肢ではありません。
売上は大まかに言えば、
顧客数 × 購入頻度 × 客単価
という複数の要素から成り立っています。
つまり、売上を伸ばす方法には、次のような複数の可能性があります。
- 新しい顧客を増やす
- 既存顧客がもう一度購入する
- 一回あたりの取引額を高める
- 別の商品やサービスを知ってもらう
- 紹介につながる関係をつくる
ところが、経営者が忙しくなるほど、
「売上を増やすには、新規を取らなければ」
という発想に寄りやすい。
なぜでしょうか。
一つには、新規顧客の獲得は「活動」が見えやすいからだと思います。
- 広告を出す
- SNSを更新する
- 営業先を増やす
- 展示会に出る
- 新しいLPをつくる
数字も追いやすい。
一方で、既存顧客との関係づくりは、成果が少し見えにくい。
メールを一本送ったからといって、すぐ売上になるとは限りません。
電話をしたからといって、その場で注文が入るとも限らない。
だから、経営会議ではどうしても「新規」の話が中心になりやすいのです。
「一度買った人」と「もう一度買う人」は、同じではない
ここで、一つ視点を変えてみます。
過去に商品を購入したお客様は、
「もう買わない人」
なのでしょうか。
それとも、
「まだ次の購入機会が来ていない人」
なのでしょうか。
この二つは、似ているようでかなり違います。
たとえば工務店なら、新築住宅の購入は一度でも、その後にリフォーム、メンテナンス、外構、設備交換などが発生することがあります。
法人向けのコンサルティング会社なら、最初は一つの部署との契約だったものが、別部署への展開や研修、別のプロジェクトにつながるかもしれません。
士業でも、最初は単発の相談だった顧客が、その後、顧問契約や別の手続きで相談してくれる可能性があります。
さらに、本人が購入しなくても、
「あの会社なら安心だよ」
と誰かに紹介してくれることもある。
つまり、一度の取引には、その取引そのものだけでは測れない関係性が含まれています。
過去のお客様は、「もう買わない人」とは限りません。まだ次の購入機会が来ていない人、別の形で役に立てる人、紹介につながる人かもしれません。
顧客リストは「住所録」ではなく、関係の履歴
ここは、経営者の方に一度見直していただきたいところです。
顧客リストを、
「名前とメールアドレスが入ったデータ」
として扱っていないでしょうか。
もちろん、それも間違いではありません。
ただ、本来そこには、
「誰が、いつ、何を買ってくれたのか」
という会社と顧客の関係の履歴が含まれています。
たとえば、次のようなお客様がいるかもしれません。
- 3年前に高額商品を購入した人
- 半年ほど前にサービスを利用した人
- 毎年同じ時期に注文している法人
- 一度購入したものの、その後まったく接点がない人
こうした情報を眺めてみるだけでも、
「この会社には、まだ提案できることがあるかもしれない」
という発見が出てくることがあります。
重要なのは、リストを「売上候補者の一覧」と見ることではありません。
その人との関係が、今どこにあるのか。
そこを見ることです。
既存顧客への連絡が、なぜ難しいのか
ここには、経営者側の遠慮もあります。
- 何度も連絡したら、営業っぽく思われるのではないか
- しばらく購入していないのに、今さら連絡しにくい
- 売り込みだと思われたくない
これは、とても自然な感覚だと思います。
だからこそ、
「とにかく連絡しましょう」
という話だけでは不十分です。
大切なのは、連絡の回数よりも、
「その連絡には、相手にとって意味があるのか」
という視点ではないでしょうか。
新しい商品の案内だけを毎回送るのではなく、相手にとって役立つ接点をつくる。
- 購入後に役立つ情報を届ける
- 業界の変化を伝える
- 以前購入した商品の使い方を紹介する
- 季節に合わせた注意点を知らせる
- 最近のお客様からよく聞く相談を共有する
そうした情報提供の中に、
「もし必要なら、私たちにも相談できます」
という選択肢を置いておく。
これなら、売り込むことと情報を届けることの違いも見えやすくなります。
これは人を操作するための話ではありません。
相手の判断材料を増やし、必要なときに思い出してもらえる関係をつくるための話です。
既存顧客への連絡で大切なのは、回数ではなく意味です。相手にとって役立つ情報を届けることで、売り込みではなく、判断材料として受け取ってもらいやすくなります。
「休眠顧客」は、本当に眠っているのか
ここで、もう一つ考えてみたいことがあります。
長期間購入していない顧客を、
「休眠顧客」
と呼ぶことがあります。
便利な言葉です。
ただ、その言葉によって、
「もう動かない顧客」
という印象を持ってしまうこともあります。
実際には、さまざまな事情が考えられます。
- 会社の状況が変わった
- 担当者が変わった
- 購入タイミングが来ていない
- 以前の商品が必要なくなった
- 自社の存在を思い出していない
- 連絡する理由がなかった
つまり、
「買わなくなった」
という事実と、
「もう関係がない」
という判断は別物です。
ここを分けて考えるだけでも、既存顧客への見方は変わってきます。
売上の前に、「関係の設計」を見る
既存顧客への施策というと、
- 再購入率を上げる
- 客単価を上げる
- LTVを高める
といった数字の話になりがちです。
もちろん、数字は大切です。
ただ、その前に確認したいことがあります。
「自社は、購入後のお客様とどんな関係をつくっているのか」
ということです。
購入してくれた。
納品した。
請求した。
それで関係が終わる会社もあります。
一方で、購入後にも関係を育てている会社もあります。
- 購入後にも役立つ情報を届ける
- 困ったときに相談できる
- 次に必要になるタイミングを知らせる
- 過去のお客様の声を商品改善に活かす
- 紹介したいと思える体験をつくる
両者の違いは、
「どちらが売り込み上手か」
だけではありません。
顧客との関係を、一回の取引で見るのか。
それとも、時間の流れの中で見るのか。
その違いなのだと思います。
既存顧客との関係は、一回の取引で終わるものではありません。時間の流れの中で、もう一度役に立てる接点を設計することが大切です。
新規開拓と既存顧客、どちらかではない
もちろん、既存顧客だけを見ればいいわけではありません。
新しい顧客との出会いがなければ、事業の市場は広がりません。
一方で、新規獲得だけを続けていると、
「新しい人を連れてくること」
ばかりが経営課題になり、
「すでに関係のある人に、どんな価値を届けるか」
が後回しになることがあります。
ですから、
新規か既存か。
どちらかを選ぶというより、
「自社の売上構造の中で、どこにまだ見えていない余地があるのか」
と考えてみる。
そのほうが、経営者としては建設的かもしれません。
たとえば今月、
新規顧客を100人増やすことに集中するのか。
それとも、
過去3年間の顧客データを一度整理して、
「この人たちとは、今どんな関係にあるのだろう」
と見直してみるのか。
どちらが正解という話ではありません。
ただ、後者を一度も見ずに、
「もっと新規を増やさなければ」
と考えているとしたら、少しだけ視点を変える余地はありそうです。
最後に
会社の成長というと、
- 新しい市場
- 新しい広告
- 新しい商品
- 新しい顧客
どうしても「新しいもの」に目が向きます。
けれど、会社には、これまで積み重ねてきた顧客との関係もあります。
それは、売上のためだけに存在するものではありません。
- 過去に選んでもらった理由
- 喜んでもらえたこと
- 期待に応えられなかったこと
- もう一度役に立てるかもしれないこと
そうしたものが、顧客との履歴の中に残っています。
だからこそ、顧客リストを見直すことは、単なるマーケティング施策ではなく、
「自分たちは、これまで誰と、どんな関係を築いてきたのか」
を見直す作業でもあるのだと思います。
さて、あなたの会社では、過去に一度でも商品やサービスを購入してくれたお客様と、今どのような関係が残っているでしょうか。
そして、その中に「まだ売上になっていない機会」ではなく、「もう一度、役に立てる可能性」があるとしたら、あなたはどの顧客から見直してみたいでしょうか?
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