「自分でやったほうが早い」が会社を止める理由|社長の時間の使い方

ある中小企業の社長と話していたときのことです。

その会社は、決して仕事がないわけではありませんでした。

  • むしろ、依頼は増えている
  • 新しいサービスの構想もある
  • 既存のお客様との関係も悪くない

それなのに、社長本人だけが、ずっと忙しい。

社長が「自分でやる」を手放せないと、会社はどこで止まるのか

  • 営業もする
  • 企画もする
  • 採用にも関わる
  • 広告の確認をする
  • SNSも見る
  • 経理の数字も細かく確認する
  • 新規事業のことを考えながら、既存事業のトラブル対応もする

そして、本人はこう言います。

「もう少し人が増えれば、楽になるんですけどね」

この言葉自体は、間違っていません。

ただ、少し考えてみたいことがあります。

本当に必要なのは「人を増やすこと」なのでしょうか。

それとも、

社長自身が抱えている仕事の構造を変えることなのでしょうか。

会社の成長が止まる原因は、人手不足だけとは限りません。社長自身が抱えている仕事の構造が、成長のボトルネックになっていることがあります。

会社が大きくなるほど「自分でやる」がボトルネックになる

創業期には、社長が何でもやることに意味があります。

  • 営業もする
  • 商品もつくる
  • 顧客対応もする
  • 請求書も処理する
  • 必要ならホームページも自分で触る

この時期は、むしろ自分でやったほうが早いことも多い。

問題は、そのやり方を会社が成長してからも続けてしまうことです。

会社が一定規模になると、仕事の総量だけではなく、仕事の種類そのものが増えていきます。

  • マーケティング
  • 採用
  • 営業
  • 財務
  • 法務
  • デザイン
  • システム
  • 広報

それぞれに専門性があります。

ここで社長が「全部理解して、自分でできるようになろう」と考えると、少し不思議なことが起きます。

会社を成長させるために勉強しているはずなのに、

いつの間にか「専門家になるための勉強」が経営の中心になってしまう。

これは、意外と見落とされがちです。

「内製化=安い」とは限らない

経営では、「外注すると高いから、自社でやろう」という判断がよくあります。

もちろん、すべてを外部に出せばいいわけではありません。

社内にノウハウを蓄積したほうがいい領域もありますし、顧客情報や事業の核心部分など、社内で持っておいたほうがいい機能もあります。

ただし、

外注費だけを見て判断すると、別のコストを見落とすことがあります。

たとえば、社長が広告運用を学ぶために3か月かけたとします。

その3か月で広告の知識は増えるかもしれません。

しかし、その間に社長が本来やるべきだった営業戦略、新商品の企画、重要顧客との関係づくりが止まっていたらどうでしょう。

外注費は「支出」として見えます。

一方で、社長の時間が失われることによる機会損失は、帳簿にはそのまま出てきません。

だからこそ、経営者が考えるべきコストは、

「いくら払うか」

だけではありません。

「その仕事を自分でやることで、何に時間を使えなくなるのか」

という視点も必要になります。

内製化は、必ずしも安い選択とは限りません。外注費は見えやすい一方で、社長の時間が失われる機会損失は見えにくいからです。

専門家を使うとは「丸投げ」ではない

ここで、一つ誤解のないようにしておきたいことがあります。

専門家に依頼することは、経営者が何も知らなくていいという話ではありません。

むしろ逆です。

経営者には、「自分で実務を行うための知識」よりも、

専門家の仕事を判断するための知識

が必要になる場面があります。

たとえば広告運用を専門家に依頼するなら、

「何となく売上を増やしてください」

では、適切な判断ができません。

  • 誰に売るのか
  • 何を価値として伝えるのか
  • どの数字を見るのか
  • どこまでを成果とするのか

こうした経営上の前提は、社長自身が持っている必要があります。

そのうえで、実際の運用は専門家に任せる。

この役割分担ができると、社長の時間の使い方が変わってきます。

「できること」と「やるべきこと」は違う

経営者には、もう一つ面白い落とし穴があります。

それは、

「自分にできる仕事だから、自分がやる」

という考え方です。

たしかに、社長自身ができる仕事はたくさんあります。

  • 文章も書ける
  • 営業もできる
  • デザインもできる
  • 数字も見られる
  • SNSも触れる

でも、

「できる」と「自分が担当する価値が高い」は、同じではありません。

たとえば社長が文章を書くことができたとしても、その時間を使って新規事業の方向性を考えたほうが会社全体への影響が大きいかもしれません。

逆に、文章を書くこと自体が商品の価値を生み出す会社なら、社長が書き続ける意味もあるでしょう。

大切なのは、

「できるかどうか」ではなく、「誰がやると最も事業価値につながるか」

という見方です。

社長ができる仕事だからといって、社長が担当する価値が高いとは限りません。重要なのは、誰がやると事業全体に最も価値を返せるかです。

料理人が、すべての仕事を一人でしない理由

少し身近な例で考えてみます。

レストランの料理人が、食材の仕入れから調理、接客、店舗の清掃、経理、広告、Webサイト制作まで、すべて一人で担当していたらどうでしょう。

本人に能力があったとしても、料理そのものに使える時間は減っていきます。

だから、役割を分ける。

  • 仕入れを任せる
  • 接客を任せる
  • 経理を任せる
  • 広告を専門家に依頼する

これは「仕事を人に押しつけている」のではありません。

自分が最も価値を生み出せる場所に、時間を戻しているわけです。

会社経営も、基本的には同じ構造です。

社長がすべての仕事を抱えることが「責任感の強さ」になる場合もあります。

一方で、それが会社全体の成長速度を下げてしまう場合もある。

ここには、少し複雑なところがあります。

固定費と変動費をどう設計するか

専門家を活用するもう一つの意味は、会社のコスト構造を柔軟にできることです。

すべてを正社員として抱えるのではなく、

  • プロジェクト単位で依頼する
  • 必要な期間だけ専門家に入ってもらう
  • 特定の業務だけ外部に任せる

こうした選択肢があります。

もちろん、外部人材にも管理コストはあります。

  • 契約内容の確認も必要です
  • 品質管理も必要です
  • 情報管理や守秘義務についても、適切な設計が欠かせません

つまり、「外注なら簡単」という話でもありません。

むしろ重要なのは、

外部の力を使うことそのものではなく、どういう仕事を、どの条件で、誰に任せるのかを設計すること

です。

ここまで考えると、「他人の力を使う」という言葉の意味も少し変わってきます。

会社の成長とは、社長ができることを増やすことではない

創業当初は、

「社長ができることを増やす」

ことが会社の成長につながることがあります。

しかし、会社が大きくなるにつれて、

「社長がやらないことを増やす」

ことが成長につながる場面が出てきます。

これは、少し逆説的です。

  • 社長が10個の仕事を覚える
  • 20個の仕事を覚える
  • 30個の仕事を覚える

そうやって会社が大きくなるのではなく、

社長が担うべき仕事と、他の人が担える仕事を分ける。

そして、それぞれの専門性を組み合わせる。

その結果として、一人では生み出せなかった価値が生まれる。

会社という組織の面白さは、そこにあります。

会社の成長は、社長ができることを増やすことだけではありません。社長がやらないことを決め、専門性を組み合わせられるようになることも、成長の一つです。

「任せる」は、経営者の仕事を減らすだけではない

専門家に仕事を任せると、社長の時間が増えます。

ただ、それだけではありません。

  • 新しい事業を考える時間ができる
  • 顧客の声を聞く時間が増える
  • 社員と話す時間が増える
  • 数字を俯瞰する時間ができる
  • 場合によっては、「そもそも今の事業を続けるべきなのか」と考える時間さえ持てるようになる

つまり、任せることの本質は、

作業を手放すことではなく、経営者にしかできない判断へ時間を戻すこと

なのかもしれません。

これは人を操作するための話ではありません。

相手の判断を奪うための話でもありません。

それぞれの専門性を尊重しながら、会社としてより良い判断をするための役割分担の話です。

まず「外注する仕事」ではなく「社長が持つべき仕事」を考える

もし自社で考えるなら、

「何を外注しようか」

から始めなくてもいいと思います。

むしろ、

「社長が今やっている仕事の中で、本当に社長が持つ必要があるものは何か」

から考えてみる。

  • 毎週、社長が繰り返している仕事
  • 社長でなくても判断できる仕事
  • 専門家のほうが早く、質も高くできる仕事
  • やらなくても事業に大きな影響がない仕事

こうして一つずつ分けていくと、意外なところに「社長の時間」が埋もれていることがあります。

会社の成長を止めているものは、必ずしも市場環境や競合だけではありません。

もしかすると、

社長自身が「自分でやったほうが早い」と思って抱えている仕事

が、成長のボトルネックになっていることもある。

もちろん、すべてを手放す必要はありません。

会社には、経営者が直接持つべき仕事もあります。

だからこそ、

「何を任せるか」より先に、

「自分は何に時間を使うと、この会社に最も大きな価値を返せるのか」

を考えることに意味があるのだと思います。

あなたの会社では、今、社長にしかできない仕事と、社長が「自分でやったほうが早い」と抱えている仕事は、それぞれ何でしょうか。

そして、その二つを分けてみたとき、社長の時間をどこへ戻すと、会社の次の成長につながりそうでしょうか。

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