売れる商品は顧客の言葉より行動を見ている|商品開発と顧客理解の考え方

商品開発やサービス改善の話をしていると、経営者の方からよく聞く言葉があります。

「ちゃんとお客様の声を聞いています」

  • アンケートも取っている
  • ヒアリングもしている
  • 営業担当から現場の意見も上がってくる

それでも、なぜか売上につながらない。

売れる商品は、顧客の「言葉」より「行動」を見ている

この現象は、決して珍しいことではありません。

むしろ、顧客の声を丁寧に集めている会社ほど、一度立ち止まって考えてみてもいいテーマだと思っています。

なぜなら、

「顧客の声を聞くこと」と、「顧客が本当に困っていることを理解すること」は、

似ているようで、少し違うからです。

顧客の言葉は大切です。ただし、言葉だけでは見えない困りごともあります。売れる商品を考えるときは、顧客が何を言ったかだけでなく、実際に何をしているかを見ることが重要です。

人は「欲しいもの」を、いつも言葉にできるわけではない

たとえば、スリッパを買うとします。

「どんなスリッパが欲しいですか?」

と聞かれたら、次のように答える人は多いでしょう。

  • 蒸れないもの
  • 履きやすいもの
  • 洗えるもの
  • 丈夫なもの

どれも、もっともらしい回答です。

商品開発をする側からすれば、非常に参考になります。

ところが、ここには一つ落とし穴があります。

本人が答えた内容が、「実際に購入を決める理由」とは限らないのです。

たとえば、ある人は「蒸れないスリッパが欲しい」と答えながら、実際には階段を上り下りするときにスリッパが脱げることに困っていたかもしれません。

でも、本人にとっては、それをわざわざ「商品ニーズ」として整理する機会がありません。

ただ、

「なんか、このスリッパ歩きにくいな」

と感じている。

この「なんか」の中に、商品開発のヒントが隠れていることがあります。

「言葉」ではなく「行動」を見る

ここで興味深い事例として挙げられるのが、ファッションセンターしまむらの「脱げないスリッパー」です。

この商品については、「蒸れない」など一般的に想定されるスリッパのニーズとは別に、「脱げない」という検索行動に着目したことが紹介されています。

検索数としては、大きな市場を示すほどではなかった。

けれど、実際に「脱げない スリッパ」と検索している人がいる。

この事実は、それだけで重要です。

なぜなら、人は検索するとき、ある程度具体的な困りごとを抱えているからです。

「脱げないスリッパが欲しい」と誰かに相談する人は少なくても、

「スリッパ 脱げない」

と検索する人はいる。

この違いは、商品開発を考えるうえで面白い示唆を与えてくれます。

つまり、

「顧客が何と言っているか」

だけではなく、

「顧客が何をしているか」

を見る。

ここに、別の情報が存在しているわけです。

人は、本当に困っていることをいつも言葉にできるわけではありません。検索する、迷う、手を止める、別の商品で代用する。そうした行動の中に、顧客理解のヒントがあります。

アンケートが悪いのではなく、「答え」だけを見ることが問題

もちろん、アンケートが不要という話ではありません。

顧客の声は重要です。

ただ、アンケートの回答を「顧客の本音そのもの」と捉えてしまうと、少し危うくなります。

たとえば、自社サービスについて、

「満足していますか?」

と聞けば、

  • 満足
  • まあまあ満足

という回答が多いかもしれません。

しかし、その人が実際にはどのページで迷い、どの説明を読み飛ばし、どのタイミングで問い合わせをしているのか。

そこまで見ると、アンケートとは違う姿が見えてくる可能性があります。

経営者にとって大切なのは、

「アンケートをやっているかどうか」

ではなく、

「言葉と行動の両方を見ているか」

なのだと思います。

顧客理解は「悩みの分解」から始まる

ここで一つ、実務で使いやすい方法があります。

顧客の悩みを、一段ずつ分解してみることです。

たとえば、

「スリッパが脱げる」

という問題があったとします。

では、なぜ脱げるのか。

  • サイズの問題なのか
  • かかとの形状なのか
  • 素材の問題なのか

さらに、

「脱げると何が困るのか?」

と考えてみる。

  • 歩きにくい
  • 階段で不安になる
  • 急いでいると履き直す必要がある
  • 音が気になる

すると、「脱げない」という一つの機能の奥に、複数の困りごとが見えてきます。

ここまで来ると、商品開発の問いも変わります。

「どうすれば脱げないスリッパを作れるか?」

ではなく、

「この人がスリッパを履いている時間に、どんな不便が起きているのか?」

になる。

この問いの変化は、かなり大きいものです。

顧客理解は、表面の要望を集めるだけでは深まりません。「なぜ困っているのか」「どんな場面で困るのか」まで分解すると、商品開発の問いが変わります。

競合を見る前に、「顧客の一日」を見る

もう一つ、経営者の方におすすめしたい視点があります。

競合商品を見る時間を、少しだけ顧客を見る時間に変えてみることです。

  • 競合A社がこの機能を付けている
  • 競合B社はこの価格帯で販売している
  • 競合C社はこの訴求を使っている

もちろん、競合分析は必要です。

ただ、競合だけを見ていると、どうしても発想が似てきます。

一方で、顧客の一日を見ていくと、競合表には載っていない問題が見えてきます。

  • 顧客はこの商品を、いつ使うのか
  • その前後に何をしているのか
  • どこで迷うのか
  • 何を面倒に感じているのか
  • 商品を使わないとき、代わりに何をしているのか

差別化とは、競合より派手な機能を追加することだけではありません。

競合と同じ市場を見ながら、

「見ている場所が少し違う」

という状態から生まれることもあります。

AIも「答えを出す道具」ではなく「仮説を広げる道具」にできる

今なら、こうした顧客理解にAIを使うこともできます。

たとえば、自社の商品について、

「この商品を購入する人が、購入前に抱えている可能性のある不満を挙げてください」

と聞いてみる。

さらに、次のように掘り下げていく。

  • その不満が起きる具体的な場面は?
  • その人は、なぜ今まで解決できなかった?
  • 本人が言葉にしにくい不満には何がある?

AIの回答が、そのまま顧客の本音になるわけではありません。

むしろ価値があるのは、

「そんな見方もあるのか」

という仮説を増やせることです。

そこから実際の顧客データ、営業現場、検索行動、問い合わせ内容などに照らしていく。

AIを「正解を教えてくれる先生」にするのではなく、「考えるための壁打ち相手」にする。

この使い方なら、商品開発の初期段階でも活用しやすいでしょう。

AIは、顧客の本音をそのまま教えてくれる道具ではありません。ただ、顧客理解の仮説を広げ、見るべき視点を増やす壁打ち相手として活用できます。

少数派の声は「市場」ではなく「仮説」として扱う

ここで一つ、注意したいことがあります。

「少数派の声に価値がある」と聞くと、

「じゃあ、少数派を見つければ売れる」

と考えてしまいがちです。

しかし、そう単純でもありません。

少数派の意見が、そのまま大きな市場になるとは限らないからです。

だからこそ、

「少数派=正解」

ではなく、

「少数派=調べる価値のある仮説」

くらいに置いておくのがちょうどいい。

  • 検索数が少ない
  • 問い合わせ件数も少ない
  • 営業担当がたまたま一度聞いただけ

それでも、その背景に繰り返し発生している問題がないか。

そこから顧客インタビューや行動データを重ねていく。

この慎重さが、経営では意外と大切なのだと思います。

「売れる商品」を考える前に、「困っている場面」を探す

商品開発というと、

「何を作れば売れるか?」

から考え始めることがあります。

でも、順番を逆にしてみる方法もあります。

「顧客は、どんな場面で困っているのか?」

そこから始める。

  • その困りごとが十分に大きいのか
  • 繰り返し起きているのか
  • 既存の商品では解決しにくいのか
  • お金を払ってでも解決したい問題なのか

一つずつ確かめていく。

そうすると、「売れる商品を考える」という仕事が、

「顧客の現実を観察し、解決する価値のある問題を見つける」

という仕事に変わっていきます。

これは、商品開発だけの話ではありません。

営業でも、採用でも、既存顧客の離脱防止でも同じです。

表面に出ている要望だけではなく、その背景にある行動や状況を見る。

すると、同じ事実でも違った意味を持ち始めます。

売れる商品を考える前に、顧客が困っている場面を探す。そこから始めると、商品開発は「作るもの探し」ではなく、「解決する価値のある問題探し」に変わります。

強い商品は、「大きな声」から生まれるとは限らない

経営者として現場を見るとき、つい「一番多い意見」に目が向きます。

それは当然です。

多数派の意見には、一定の再現性があります。

ただ同時に、少数派の中に「まだ整理されていない問題」が存在することもあります。

だから、

多数派を見ることと、少数派を見ること。

どちらか一方ではなく、両方を見る。

そのうえで、言葉だけではなく行動も見る。

そして、見つけた違和感をすぐ商品化するのではなく、仮説として検証する。

この一連の流れが、顧客理解を一段深くしてくれるのではないでしょうか。

これは人を操作するための話ではありません。

相手の判断を奪うための話でもありません。

むしろ逆で、顧客がまだうまく言葉にできていない問題を、こちらが丁寧に観察する。

その結果として、「こんなことで困っていたんだ」と本人にも見える形にしていく。

そこに、企業が提供できる価値の一つがあるのだと思います。

では、ここで少し立ち止まってみてください。

あなたの会社では、顧客から「言われたこと」はたくさん集まっていると思います。

ではその一方で、顧客が言葉にはしていないけれど、繰り返し行っている行動は何でしょうか。

  • 問い合わせる前に何を調べているのか
  • 購入前にどこで迷っているのか
  • 使い始めたあと、どこで手を止めているのか
  • 顧客自身もまだ「問題」と認識していない不便はないか

もし明日、競合の商品を見る時間を少し減らして、顧客の一日を観察するとしたら——あなたの会社では、まずどの場面を見に行きますか?

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